プログラムについて

山、川、そして人。古から続く大きな自然のサイクルは、時代によって形を変えながらも私たちの暮らしと密接なつながりを持っています。こうした自然と暮らしの変遷を知ることは、環境保全を考える時に欠かせない要素です。身近な自然とそこに住む人々が、どのように関わってどのような歴史をたどってきたかを、子どもたちが学ぶ一端となることを願って、各種プログラムの制作に取り組んでおります。児童向けに映像を収録したDVD、賢治の作品の朗読CD、そしてより深い理解への導きのため、学校やご家庭での指導の際にお使いいただける補完教材としての冊子を編集し、ご提供しています。

銀河の森と賢治さん

プログラムでは、早池峰山麓一帯を銀河の森と名付け、郷の人々の暮らしとの関わりを紹介しています。 プログラムは、エリアごとにテーマを設けていますが、すべてのエリアに"賢治さん"の足跡や視点が遺されています。"賢治さん"こと宮沢賢治は、「風の又三郎」や「銀河鉄道の夜」などの代表作で知られる花巻市出身の文学者です。後世まで愛される作品を生み出した賢治はまた、フィールドワークに通じた地質学者でもありました。早池峰山麓一帯は、賢治が地質調査で訪れ、自らの手で自然を深く学び、感じた場所。こうした経験は、その後の作品にも色濃く反映されたと考えられています。プログラムの隠れたナビゲーターは宮沢賢治その人であり、自然の中でのフィールドワークを大切にした賢治の視点を追ったものです。

多面的な学びの先駆者

宮沢賢治はどんな人ですか?と尋ねた時、多くの方は代表作とともに詩人や作家としての賢治を思い浮かべるでしょう。ところが、賢治の生涯を追うと、実に多彩な面を持ち合わせていたことがわかります。 盛岡高等農林学校で地質や土壌学を学び、地質学者として、また土壌の改良や肥料設計を指導する化学者としても活動しました。後には採石技師や農学校で後進を育成する教師など職業としての性質が大きいものにも携わっています。 こうした専門的な分野だけでなく、音楽や演劇を愛し、レコードの観賞会や演劇の上演など、芸術的な活動にも熱心でした。早池峰山をはじめ、岩手山など登山もよくしており、作品にも山名や風景が織り込まれています。
さて、賢治の生き方の中でも、文学者に次いでよく知られているのは宗教家としての顔でしょう。古里・花巻をユートピアにしたいと願い、日蓮宗に篤い信仰を捧げました。ユートピアへの思いは、社会運動という現実的な動きも見せます。羅須地人協会を設立し、農業指導だけでなく農民に生き方を説きました。
37歳で生涯を終えた賢治は、広い知識と自ら実践する心で多面的な活動を行い、すべての要素が作用し合って、"賢治の世界"を創り上げたと言えます。環境教育に必要とされるのは、こうした多面的な学びです。数値や年表だけでは計り知れない、複合的な要素を五感を使いながら感じ、学びとっていく行程が、子どもたちを豊かに育むものと、私たちは考えています。

山、川、人

銀河の森の中心には、北上山地の最高峰・早池峰山がそびえています。古来、早池峰山は、稗貫川を始めとした山麓の河川を育む水源の山として、崇められてきました。そしてまた、人々は、山の恵みに感謝し、神そのものとして崇めてきたのです。山と人との関わりは密接です。その自然との関わりを認識することは、人間が有限であり、そして自然の中で“生かされている”ことを自覚し、共生を考えるための第一歩です。また、フィールドワークを大切にした賢治さんに倣い、自然に関する知識だけでなく、自らが動植物の生息圏を体感することで、自然の不思議さや素晴らしさ感じ、そしてそこから“畏れ”を知り、自然環境を大切にする気持ちが育まれていくことでしょう。 さあ、それでは賢治さんと一緒に「銀河の森」の世界へ出かけてみましょう。